それは、気が付いたころから いつの間にか習慣の一つになろうとしていた 奇妙に穏やかな時間の延長。 ヤグヤグとハンスは昼食を終え、皿がかたされてその後しばらく、 互いに何を話すもなくただ穏やかに 時計が針を刻むのを、海鳥が遠くに鳴くのを聞いていた。 紅茶の甘い香りが部屋の隅へと昇り切ったころに、 ふと、カップの縁に添わせる指を離して ヤグヤグは本の文字を追う助手の男に声をかける。

	ヤグヤグ
	「なあ、ハンス。」

その一声を合図に、緩やかに止まる時の流れに 一口、再び時が流れる音がする。

	ハンス
	「 …………いかが、なされました？」

読み進める本のページをたたみ ハンスが顔を上げてヤグヤグの声の続きを待った。

	ヤグヤグ
	「……私は、もうじきこの海を離れようと考えている。」

	ヤグヤグ
	「この海を離れる船に乗り、しかし。 元の港には戻らないつもりだ。 旅を、続けようと思う。 ……この頃になって、知りたいものが出来た。 いや。知るべきものが出来た、とでもそう、言おうか。 チケットは取ってある。 だが、遠い港に着く船だ。 もしも、その船に乗ったのならば。 この海に訪れる前に足を付けていた、 その土を再び踏むがいつになるのかはわからない。 あるいは、その日が訪れないとも言い切れない。 だから、お前に訊ねるんだ。」

そう、淡々として言いながら。 袖の擦れる音だけをわずかに立ててチケットをテーブルに置き 二人の間に押し滑らせて指を離した。

	ヤグヤグ
	「お前は……ついてくるか。」

問う言葉を最後に、ハンスは目を丸くしてヤグヤグの方を向いたまま。 微か浜から届く波の音が部屋を覆い響いた。 海鳥の羽ばたきが2つ聞こえて。 それから ふふ、と。 彼は小さく笑って唇を開く。

	ハンス
	「……突然に話をすると思えば、ああ。 そのような事でしょうか。」

	ハンス
	「ムロジャフ博士。 例えあなたが私の事をどのように言い、思おうとも。 私は……あなたの助手なのですよ。 港を遠くに隔てては、その役割は果たせましょうか？」

ハンスはそう言って、やわらかく笑みを投げかけた。

	ヤグヤグ
	「 ……そうか。」

投げられた笑みに、ヤグヤグはどこかそっけない様に一言だけ、言葉を返し。 冷めきった紅茶のカップに、指先を伸ばし 底に残るわずかひとしずくを舌先へと落として テーブルに置いた。

	ヤグヤグ
	「……いつの遠くになるかわからない。 故郷の地を侵した流の魔の理を解く為と。 そうして、流の実を解き、種の身に落ちた魔を溶かす術を導いて見せる。 だから、どうか。 どうかそれまでの間、待っていてくれ」

それから、続く言葉は時の針よりも小さく。 誰に聞かせるでもないかのようにそう、つぶやいた。 それが聞こえたか、何かと怪訝そうに尋ねるハンスに、 ヤグヤグはただ、何でもないのだと小さく笑う。 遠くで鳴く海鳥と潮の音を運びながら。 穏やかな時は、再びそこに横たわっていた。

	穏やかな海《セルリアン》

穏やかな波、暖かい水温。太陽の光を透かし、キラキラと輝く水中に、
光とともに舞うように鮮やかな熱帯魚達が珊瑚礁に集まる海域。

この世界の窓口である探索者協会からも程近いこの場所は、
色々なところから集まってきたバカンス目的の観光客や、
これから冒険に挑もうとするものたちで賑わっている。

比較的凶暴な生物もいない、穏やかな、冬でも温暖の海である。

バカンス

先へ先へと旅立っていく探索者たちを尻目に、
ヤグヤグ達バカンス目的の者は銘々に楽しんでいることだろうッ！
なぜならガイドブックにすら載っていない、
まさにこの最先端でバカンスをしているのだからッ！

海底探索協会周囲に広がる、
小魚の群れや小さな珊瑚礁も美しかったかもしれないッ！
だがここはさらに離れ、よりディープな海域になってきているのだッ！

この先は更にデンジャラスな生き物や海域が存在するかもしれないッ！
だがッ！　最先端の、より刺激的なバカンスを望むというのならば、
探索者たちが切り開くその道を進み、
より一層の充実感を求めてバカンスするといいッ！

暖かな海、緩やかな潮の流れ、色とりどりの魚たちッ！
まだまだこの海は、バカンス出来る場所がありそうだッ！

ヤグヤグは周辺を探索…………。

今回はアイテムを見つけることができなかった！

ヤグヤグは訓練をせずゆっくりしていた。

目的の決定